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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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イーハトーブ

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雪融けて桜が咲き、早池峯が春の日差しで浮き上がる姿を見、思い浮かんだ言葉がイーハトーブだった。イーハトーブは宮沢賢治の造語であり、エスペラント語に影響されたと云う。イーハトーブの変遷があるらしく、イエハトブ → イーハトヴ → イーハトーヴ → イーハトーヴォ/イーハトーボ → イーハトーブと変ったようだ。「ブ」と「ヴ」の変化は、「B」で始まるものは「バ行」で書き示し、「V」で始まるものは「ヴ」で書き示す日本語の基本があるのだが、それが揺れ動いているようだ。例えば「violin」は現在、日本語表記で「ヴァイオリン」とも「バイオリン」とも書き表されている。明治時代の詩集などでは、「violin」を「ヴィオロン」とも書かれているのは、まだ正確な発音が伝わって無かったせいだろう。宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」もまた「Cello(チェロ)」を「セロ」と読んだ為だろう。英語表記がまだ定まって無い時代に生きていた宮沢賢治の言葉には、ある意味自由に溢れていたのだろう。例えば宮沢賢治作品中に表現される擬音は、賢治ならではのもので、誰にも真似出来ない自由な表現になっている。

ところで、エスペラント語自体が造語であるのだが、それにはやはり他の言語の基本があってこそで、様々な言語が自由に取り入れられている。ラテン語が基本の様だが、その中にはペルシャ語もある程度含まれているようだ。そのペルシャ語だが、「イーハ」と「イワ」という言葉がある。

「iha(イーハ)」「霊感を与える。神の啓示」という意味になるが、これがアラビア語に転訛すると、日本語の「八重垣」を意味するという。八重垣と言えば「古事記」において素盞嗚尊が、八岐大蛇を退治した後「八雲立つ出雲八重垣妻込みに八重垣造る其の八重垣を」と詠んで櫛稲田姫との住居を構えた事を思い出す。つまり大雑把に「iha(イーハ)」を約すれば「神に守られた空間」でもあるかもしれない。

「iwa(イワ)」「厚いもてなし、歓待。庇護、避難、避難所。」という意味だが、別に「拝まれ、尊ばれる。」ものも「イワ」であるという。そのイワの窟とは、神の坐す場所であり難を避ける場所でもあるといとう。

イーハトーブは、宮沢賢治が岩手をもじって造ったというが、岩そのものに神が宿る意味が含まれているのを知って造ったものとも思える。当初自分は「イーハトーブ」は「ビオトープ(生物生息環境)」に似た様なものか?と思っていたが「イーハトーブ」の「トーブ」は濁っており「ビオトープ」の「トープ」の半濁音とはまた違うのかとも思ったが、どうも根底で意味は繋がりそうだ。ペルシャ語で゛「tav(タフ)」という語がある。意味は多彩で「暖かな、溝、折り目、水溜り、池。」などを意味する。このtavをihaと繋げれば「ihatav」「神の加護に包まれた水」とでも訳そうか。そして、それに岩を加えて訳すれば、早池峯山が思い浮かんでしまった。宮沢賢治そのものはよく早池峯へ行き、蛇紋岩を採集した早池峯フアンでもあった。本州最古の地層を持つ早池峯に宮沢賢治はかなりの興味を抱いた気がする。岩手県に拡がる信仰は、一番標高の高い岩手山よりも早池峯山が断然多い。その早池峯にはハヤチネウスユキソウなら特殊な山野草もある事から、早池峯とはまるで神に護られた山の様にも感じたのでは無かろうか。自分勝手な思い込みの記事になってしまったが、イーハトーブという言葉の中心には早池峯があるのではないかと思ってしまうのだ。

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