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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語35(走る女)」

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佐々木氏の祖父の弟、白望に茸を採りに行きて宿りし夜、谷を隔てたるあなたの大なる森林の前を横ぎりて、女の走り行くを見たり。中空を走るやうに思はれたり。待てちやァと二声ばかり呼ばりたるを聞けりとぞ。

                                  「遠野物語35」

白望山については何度も書き記したが、山に棲む人間は確かに居た事から当然、女性もいた事だろう。男達に一緒に付いて来た女性もいただろうし、村の娘を誘拐した場合もあっただろう。ただここでの記述は「中空を走るやうに」と記されている事から、まるで物の怪の様な描写となっている。

槇佐知子「病から古代を解く」の中に、「正彦薬」というものがある。その適応症に「母乃久留以病卒泣笑如崇登垣或狂走者」とある。「母乃久留以病」は「モノくるい病」と訳されているが「母のくるい病」の可能性もあると述べられている。その症状は、俄かに泣き、笑い、祟りの如く垣根に登り、狂って走るというものらしい。例えば狐に憑かれた者は、異様な行動や異常な力を発揮する場合があるという。まさに「中空を走る」という表現は、狐に憑かれた様な、この症状に適応したものであると思えてしまう。

まあ実際は、遭遇した男が夜の山での出来事であるから恐ろしさの余り、そういう風に感じたのかもしれない。「待てちやァ」という呼び声も考えてみれば、誘拐された女が山に棲む男の家から逃げ出し、里の男を発見した為に必死で声をかけた”助けを懇願する”呼び声だった可能性はあるだろう。

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