山田さんは、釜石から遠野行きの列車に乗っている最中、小佐野を過ぎた頃からうとうとと眠ってしまったそうである。ふと眠りから覚めたのは、仙人峠を過ぎたあたりであったと。すると誰も居なかった筈の座席の前に、24、5歳くらいの美しい女性が座っていたそうだ。その車両は殆どガラガラの状態で、何故自分の前に、女性がわざわざ座ったのか理解できないでいたという。話しかけると、自分と同じ遠野まで行くのだと。遠野に到着し、改札口まで自分の後をついて来るので、ついつい夕食を誘ったらOKされたのだと。楽しい食事を共にして、その店の前で別れたそうだ。その美しい女性が歩く後姿を見送っていると、いつの間にか闇に溶け込むように消えてしまったそうだ。山田さんは遠野に赴任して1年は過ごしたそうだが結局、一度もその女性に逢える事は無かったそうである。今では、不思議な体験として心に残っているようである。
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