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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「闇・遠野物語(梁の上の亡魂)」

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村の久手という所に、某という家がある。この家には12、3歳の男の子がおったが、この前の別当の家の子供の様に、他に出ては盗み食いするので、村方からのかけあいが毎日の様にあった。家の人達もほとほと困って他郷へ追いやったが、もうこれぐらいの年頃になると道の左右も知れているので、いくばくもなくすぐに帰って来る。そこでとうとう思案にくれてしまって、その男の子を大きな穀物ギツ(穀物を貯蔵する大きな箱)に入れて、堅く蓋をして蒸し殺してしまった。その男の子は七日七夜ばかりギツの中で泣き叫び、暴れまわっておったと云う。

その後余程の年月が過ぎてから、その家で念仏があったという。その時、座敷で衆人が


「"なむあみだんぶ"」


と言えば、梁の上から童の様な細い声で、


「なむあみだんぶ」


と言った。また、下で、


「餓鬼の念仏南無阿弥陀仏」


と唱えると、やはり梁の上から、


「がきのねんぶつなんまみだ!」


と唱えたそうである。念仏講の連中は皆顔色を失い、


「先年の飢饉の時に蒸し殺した童子の霊魂だろう。」


と言い合ったとの事である。


                      佐々木喜善「遠野奇談」より
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飢饉の時は、真っ先に弱い者、邪魔者が間引かれたというが、まったく無念の死であると思う。

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