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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語拾遺203(狐の経立)」

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遠野の元町の和田という家に、勇吉という下男が上郷村から来ていた。ある日生家に還ろうとして、町はずれの鶯崎にさしかかると、土橋の上に一疋の狐がいて、夢中になって川を覗き込んでいる。忍び足をして静かにその傍へ近づき、不意にわっと言って驚かしたら、狐は高く跳ね上がり、川の中に飛び込んで遁げて行った。勇吉は独笑いをしながらあるいていると、にわかに日が暮れて路が真闇になる。これは不思議だ、また日の暮れるには早過ぎる。これは気をつけなくては飛んだ目に遭うものだと思って、路傍の草の上に腰をおろして休んでいた。そうするとそこへ人が通りかかって、お前は何をしている。狐に誑されているのでは無いか。さあ俺と一緒にあべと言う。ほんとにと思ってその人についてあるいていると、何だか体中が妙につめたい。と思って見るといつの間にか、自分は川の中に入ってびしょ濡れに濡れておりおまけに懐には馬の糞が入れてあって、同行の人はもういなかったという。

                                                    「遠野物語拾遺203」
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遠野には、いくつもの狐の関所があり、この鶯崎も遠野の町外れであり、悪戯狐が現れた場所だと云う。佐々木喜善「聴耳草紙(狐の話)」によれば、鶯崎に居る狐はウノコという狐であるようだ。そのウノコは「遠野ノ町の付近で昔から狐の偉えものは、八幡山のお初子、鳥長根の島子、鶯崎のウノコ三疋であった。」という事から、狐の中でも位が高い狐であったか。

偉い狐の一疋に八幡山のお初子がいるが、「ものがたり青笹」に踊鹿(驚岡)の狐の話が紹介されている。踊鹿は八幡山に属する為に、この話に登場する狐がお初子であろうか。画像は、その踊鹿に鎮座する稲荷社に飾られる狐面。この話は「遠野物語拾遺203」と似た様に、ある者が穴掘りに夢中になっていた狐を驚かせたところ、やはり突然真っ暗闇になって狐の逆襲に遭う。

空を暗くする狐は「遠野物語拾遺189」にも登場し、馬木ノ内稲荷様とされている。画像は、この馬木ノ稲荷神社。この様に馬木ノ内の狐も踊鹿の狐も、社が建てられ祀られているが、同じ様に天候を操る鶯崎の狐には何故か社が建てられていないのは、少々寂しいものがある。

狐に位があると聞いて思い出すのが、山口部落にあるデンデラ野の奥にある妖狐の墓だ。この狐は白狐であったらしく、歳を経て霊威を供えた為か、他の狐が貢物として兎などの獲物を持って来たと云う。そういう意味から「偉い狐」となるには、かなりの歳を経ているのだろう。そして妖力として天候を操るなどの事が出来るようになったという事か。「遠野物語」には「猿の経立」「御犬の経立」がやはり歳を経てなるものから、この「偉い狐」は「狐の経立」と呼ぶべきなのかもしれない。

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