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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語拾遺143(名刀)」

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小友の松田留之助という人の家の先祖は、葛西家の浪人鈴木和泉という者で、当時きわめて富貴の家であった。ある時この家の主人、家重代の刀をさして、遠野町へ出ての帰りに、小友峠の休石に腰をかけて憩い、立ちしまにその刀を忘れて戻って来た。それに気がついて下人を取りにやると、峠の休石の上には見るも恐ろしい大蛇が蟠っていて、近よることも出来ぬので空しく還り、そのよしを主人に告げた。それで主人が自身に行って見ると、蛇と見えたのは置き忘れた名刀であった。二代藤六行光の作であったという。

                                                  「遠野物語拾遺143」
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名刀が蛇になる伝説は今更だが、この藤六行光の流れは、名刀正宗の流れの元となる。「注釈遠野物語拾遺」には、藤六行光の名が登場する歌が紹介されている。

五郎もつたる短刀とりて なかみあらためびっくりいたす

五郎引き寄せ顔打ちながら さては我が子であったか五郎

親はなくとも子は育つ そちの尋ねる父親こそは わしじゃ藤六行光なるぞ

常石英明「日本刀の鑑定と鑑賞」に、藤六行光ではなく藤三行光について記している。

五郎入道正宗の父で、相州伝の元締格に当る名匠。兄大進坊同様の雄壮な作柄ですが、反りはやや浅く、総体に落ち着きがあり品格があります。刃文は沸え本位の中直刃ほつれか、大のたれ乱れを焼き刃縁に働きが多いです。地肌は粟田口の様に良く鍛えられ冴えていますが、鎬寄りに板目肌が現れます。太刃は在銘品が無く、短刀に在銘品があります。

よくわからないのが、藤六行光という名が、実際は藤三行光である事。調べると確かに藤三行光の名前で、短刀の名刀が残っている。この名前の違いは何か意味があるとは思うが、ここではそれを追及しようとは思わない。そしてそれはさて置いて、藤六行光の在銘品は短刀だけであり、太刃には銘が刻まれていないという事実。この「遠野物語拾遺143」に登場する刀は、脇差である短刀という表現を使っていないので、通常の太刃の太刀であると思うのだが、それが藤六行光の作であるというのは事実では無く、憶測という事になる。

刀工の分布図を見ると、遠野に近いところでは月山系、舞草系、宝寿系の三つがある。以前紹介した遠野に伝わる「呪いの刀 日宝寿」は、一ノ関に属する宝寿系の太刀となるようだ。しかし、鈴木和泉の家では、余りにも有名な名刀正宗の系譜である相州伝の太刀を持っているという憶測、噂は、鈴木和泉の家がそれだけの富貴な家であるとされたからではなかろうか。しかし富貴とはいっても、あくまでも遠野レベルの話である。貧乏藩であった遠野藩は、大量生産の安い太刀を盛岡で買い付けていたようであるが、そういう世に伝わる相州伝系の名刀を手に入れる程の侍が遠野にいたとは、考えられない話ではある。

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