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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語拾遺204(捏造記事)」

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これは大正十年十一月十三日の岩手毎日新聞に出ていた話である。小国のさきの和井内という部落の奥に、鉱泉の湧く処があって、石館忠吉という六十七歳の老人が湯守をしていた。去る七日の夜の事と書いてある。夜中に戸を叩く者があるので起きて出て見ると、大の男が六人手に手に猟銃を持ち、筒口を忠吉に向けて三百円出せ、出さぬと命を取るぞと脅かすので、驚いて持合せの三十五円六十八銭入りの財布を差出したが、こればかりでは分らぬ。是非とも三百円、無いというなら打殺すと言って、六人の男が今や引き金を引こうとするので、夢中で人殺しと叫びつつ和井内の部落まで、こけつまろびつ走って来た。村の人たちはそれは大変だと、駐在巡査も消防手も、青年団員も一つになって、多人数でかけつけて見ると、すでに六人の強盗はいなかったが、不思議なことには先刻爺が渡した筈の財布が、床の上にそのまま落ちている。これはおかしいと小屋の中を見まわすと、貯えてあった魚類や飯が散々に食い散らされ、そこら一面に狐の足跡だらけであった。一同さては忠吉爺は化かされたのだと、大笑いになって引取ったとある。この老人は四、五日前に、近所の狐穴を生松葉でいぶして、一頭の狐を捕り、皮を売ったことがあるから、定めてその眷属が仕返しに来たものであろうと、村ではもっぱら話し合っていたと出ている。

                                                    「遠野物語拾遺204」

「注釈遠野物語拾遺(下)」には、その岩手毎日新聞の記事が紹介してあった。内容は確かに「遠野物語拾遺204」の通りに記されている。では、これをどう捉えて良いのだろう?実際に、複数の人間が小屋の中の狐の足跡を確認し、あげた筈の三十五円六十八銭入りの財布を確認している。だからこうして、新聞記事にもなったのだろう。ならば、忠吉爺さんが幻覚を見たのか、それとも夢とうつつを混同したのかとなる。

そして、もう一つ考えられるのは、明治32年に創刊された岩手毎日新聞は、岩手県で一番読まれている岩手日報のライバル紙であったという事だ。しかし、昭和8年に廃刊となったという事は、約35年程度の操業期間であるから、殆どが岩手日報に圧倒されて経営状態が良くなかったのであろう。となれば、最近の朝日新聞の捏造記事の乱発を考えれば、経営に困った岩手毎日新聞が、読者の注意を呼び込む為に、記事を捏造した可能性はある。いやもしかして、狐の怪事件で評判となった和井内の温泉に客を呼び込もうと共謀して捏造記事を書いた可能性もある。まあそれでも、被害者が殆ど出ない捏造記事であるから、国民に甚大な被害を与えた朝日新聞の捏造記事よりも、ほのぼのとして許してあげても良いのかもしれない。

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