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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語拾遺84(神木)」

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松崎村字駒木、真言宗福泉寺の住職佐々木宥尊氏の話に、この人の生家の附馬牛村大出などでも、狩の神様だという者が多い。昔は狩人が門出の時に、オシラ様に祈って今日はどの方面の山に行ったらよいかを定めた。それには御神体を両手で挟み持ち、ちょうどベロベロの鉤をまわす様にまわして、この馬面の向いた方へ行ったものである。だからオシラ様は「御知らせ様」であろうと、思っているということであった。今でも山の奥では胞衣を埋める場所などを決める為に、こうしてこの神の指図を伺っている者があるという話である。

                                                     「遠野物語拾遺84」
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「注釈遠野物語拾遺」によれば、佐々木宥尊氏の出身は、大出ではなく小出であるという。佐々木喜善と親しかったという事から、この話に登場したのだろう。

御知らせの神としては、観光向けに語られる「オシラサマ」の話に、馬と共に天へと昇った娘が両親の夢枕に立ち、桑の木の蚕が幸せを呼ぶものだと知らせた事からも、オシラサマは御知らせ神として伝わっている。ところでよく、行き先が定まらない場合、杖を真っ直ぐに立ててから、倒れた方向へと進むというやり方がある。杖は樹木から出来ている為、樹木信仰の名残だという話もある。杖を挿して、水が湧いた。杖を挿して、宝物を発見したなどと云う伝承が全国各地にはある。

真言宗福泉寺の佐々木宥尊氏が登場しているが、河内にある真言宗の金剛寺は、行基創建の古刹であり、平安末期に後白河法皇の援助を受けて再興されている。その時代の定め書きに、こう記されている。

「山は草木を以て庄と為し、人は才智を以て得と為す。草木無くんば即ち泥丸の如し。才智無くんば即ち木頭に似たり。」

これは、山における草木は人における才智でもあり、それが無ければ「でくのぼう」だと言っている。「でくのぼう」は「木偶の坊」と書き記し、役に立たない人や、気のきかない人、人の言いなりになる人の事を言うが、別に操り人形の事でもある。オシラサマもある意味、人に操られる木偶の坊の様でもあるが、実は神の才智が宿る木偶でもある。だからこそ、オシラサマに方向などのお伺いを立てているのは、オシラサマに神の才智が宿っているものとしたのだろう。

上の画像は「春日権現験記絵」からだが、大勢の者達が神官の先導の元に、榊を持って歩いている。春日大社には樹木に関する伝承が多く、春日山と、其の周辺の山々の樹木が一斉に枯れる事件が起こっている。ある場合は風害であり、ある場合は虫害のようであるが、それを神威として捉えていたようだ。樹木とは神が愛するものであるから、その樹木が枯れるのは神の言葉の顕れであるとと思っていたのだろう。春日大社は藤原氏が祭祀権を持つ神社であるが、中臣連時風と中臣秀行が神々を山の上から麓の神殿まで移そうとした時、神が託宣によれば「榊を乗り物として移し申せ。」という。その理由は「後代に我が正体として崇を致すべき故也。」というものだった。そうして御告げの通りに榊に神を乗せ、神殿に移したという。三保の松原の天女もそうだが、樹木は神の依代となる。遠野は寒い為に、榊の生育は難しい為に、イチイの木が榊の代わりとなっている。早池峯大神を祀る奥州市の新山神社の宮司は、是非榊を育てたいと努力して、数年前から榊を境内に定着させていた。早池峯大神の異称が、撞賢木厳之御霊天疎向津媛命であった事も大きかったようだ。

ここでオシラサマ縁起を読み直すと、皮を剥いだ白馬を桑の木に吊るしている。つまり白馬は神に対する生贄であり、これは桑の木に神を依り憑かせる神事であるとも思える。そして馬だけでなく、更なる贄として娘をも捧げさせ、天に昇ったという事は、願いが成就されたと捉えても良いのだろう。だからこそ、桑の木に蚕が発生し、それによって豊かな生活が築く事が出来た。オシラサマの木偶が殆ど桑の木から出来ているというのは、桑の木に神を宿らせたという事であろう。春日大社の伝承からも、神を依り憑かせるのは神木となる樹木である。つまり「遠野物語拾遺84」での桑の木であるオシラサマは、神そのものであるという事。だから、その神の託宣を聴く為に、オシラサマにお伺いを立てたのだろう。

春日の神は鹿に乗った姿で伝えられるが、遠野の早池峯の神は、馬に乗った姿で伝えられる。オシラサマでも馬面のオシラサマを使うのは、神の乗り物であるからだろう。遠野全体でもそうだが、特に附馬牛に付属する、大出・小出で信仰する山は早池峯である事を踏まえれば、山神でもある早池峯の神がオシラサマの桑の木に依り憑いたのであろうから、狩の神と思うのは当然の事であろう。

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