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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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遠野不思議 第八百三十四話「遠野の魔女狩り」

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「上郷聞書」には、こういう話が紹介されていた。

川原の某家の娘が、羽場の藤兵衛家に嫁に行った。その娘は、非常に美人で、嫁に行く前から近所の若者達の羨望の的になっていた。ところが、かねてから当時肝煎りをしていた某が、その娘に恋をしていたのに嫁に行かれたので、何時か折があったらと思っていた。

たまたま藤兵衛家に嫁に行ったその娘が婿を嫌っていたのを聞いて、肝煎りは、その娘は前に誰かと関係があった為に、婿を嫌うのだと言い触らしたそうである。その噂が元で娘は七日七晩土蔵の中に入れられて折檻されたという。しかし、元からそんな恋人も無く白状もしようがない娘は、結局何も言う事ができなかった。そこで遂に赤沢の前で打ち首する事となり、某家より連れ出し、途中簾から流れ来る小池の水を末期の水と飲み、刑場へと引かれていった。

この事を、森の下の慶雲寺の十二代目和尚が聞き、可哀想に思い、何とか救いたいものと、古戸まで来たが間に合わなかったと…。娘は、首を切られる時に嫁いだ羽場の方をうらめし気に見ながら死んでいったそうである。その時、刑場にヒバの木があったが、以後その羽場の方向を向いた木の枝は、何時も枯れてしまうという話である。また、最後の水を飲んだ小川の水は、今でも飲む人がいないと言われている。現在その小川は、田になっており、ウッコの木が生えている。
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可愛さ余って憎さ百倍と云うが、似た様な事が中世ヨーロッパでも起きたという。それは、魔女狩りの時代だ。魔女を恐れ、あらゆる人々が魔女に認定されて、火刑に処された。当初は純粋に魔女だとされた場合もあったが、途中から人を貶める為に魔女というデマが飛ばされた。それは裕福な家を妬む心が、その家の人を魔女にして、家の財産を奪おうとしたり、この上郷の話と同じ様に、好意を持っていた女性にフラれた為、その反動からその女性を憎み、魔女であるとして噂を広めたなど、人の心が荒んでいた時代であった。

遠野の歴史は、飢饉などの災害の歴史でもあった。しかし、そういう中でも裕福な家は、存在した。「遠野物語19」の様に、その家の主人が死ぬと、遠い縁者やら近所の人間が寄ってたかって、その家の物をむしり取る様に持って行くさまは、まさに人々の鬱屈した妬み心からきているものだろう。また、同じ上郷の来内では村主と神社の神官が結託していたらしく、その村での強権政治を行っていたらしい。しかし、発生した百姓一揆の勢いから、その村を支配していた村主と神官は真っ先に襲われ殺されたという。ロシアの農奴解放時、農奴達が手に鋤や鍬を手にして、領主を襲ったという事件がロシア国内のあちこちで起こったという。貧しいが故の心の歪みを治すのは、全体が豊かになるしかない。しかし、異性に対する妬みつらみは、今の時代でも形を変えて起きている。人を貶める一つの嘘が、取り返しのつかない事になるのは、ままあるの事だ。

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