
遠野の下組町の市平という親爺、ある時綾織村字砂子沢の山に栗拾いに行って、一生懸命になって拾っているうちに、たまらなく睡くなったので背伸びをして見ると、栗の木の枝から大きな蛇が、下を睨めていたという。たまげて逃げて帰って来たそうである。
「遠野物語拾遺179」
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大蛇と云う概念は、この現代となって世界のあらゆる情報が身近になった為か、大蛇のイメージは恐らく、動物園などで見るニシキヘビやアナコンダなどの外国産の大蛇になるのだと思う。今まで発見された最大の蛇としてはオオアナコンダが16・5メートルであるというから、ここまでくれば大蛇というより怪獣に等しい。恐らく遠野で最大の蛇はアオダイショウであろうが日本のギネスでもせいぜい2メートル。しかしその2メートルのアオダイショウでも間近に見れば大きく見えるだろうし、ましてや蛇嫌いの人間が目撃すれば、その大きさは倍以上になって伝わるのだろう。

ところでこの話は、恐らく東禅寺の開祖である無尽和尚の逸話からではなかろうか。無尽和尚が遠野に来たのは、無尽の師匠が白幡を飛ばして、その落ちた場所に庵を建てろというものだった。その落ちた白幡は大蛇であったとか白竜であったと云われるが、それを見た村人は恐ろしくで近寄れなかったという。また、東禅寺での修行から逃げ出そうとした修行僧を、無尽和尚が蛇となって驚かしたという話も伝わっている。その場所はやはり、綾織の砂子沢近辺であった。