
ハヤリ神が出現する時には、方々に引続いて出るものである。綾織村でも稍
遅れて、前と同様な由緒で清水のハヤリ神が現はれた。此処の祭りをして居
るのは、何とかいふ老媼であったと聞いて居る。
「遠野物語拾遺47」

「前と同様な由緒で…。」と記されているが、それがどれを言うのか少々わからぬが、流行に乗って綾織でも清水が湧いたという事だろう。「注釈遠野物語拾遺」では、綾織町山谷川の老松から湧き出た神水であると紹介されている。何故神水であるかといえば「遠野今昔」で、その神水の場所が「明治八年(1875年)の大水の時に、竜神がひいひいと啼いて流れ去った。」とある。つまり、その神水の場所は大水で流されて、今は無くなったという事なのだろう。竜神がひいひいと啼くくらいであるから、それだけ凄い大水であったという表現と捉えて良いだろうか。
「遠野市史」から年表を確認してみると1875年に、ただ「洪水」とだけ記されている。水害の詳細は確認できなかったが「遠野今昔」に記されている様に、確かに大水が起きたのは確認できた。このハヤリ神の水は諸病に効くというので、その水を沸かして湯屋を営んでいたのは「相の畑」という屋号のヨシ婆という事である。「遠野物語拾遺47」文中の老媼とは恐らくヨシ婆様であったろう。もしかして「ひいひい」と啼いたのは、せっかく営んでいた湯屋が大水で流された為のヨシ婆様の嘆きであったろうか。