
昭和48年、演習中の自衛隊員がトラツグミの鳴き声を聞いて、その正体がわからず恐ろしくなり警察に通報して、パトカーが出動した案件があった。また昭和51年、神奈川県でトラツグミの鳴き声を録音した人物が不気味な鳴き声だとして神奈川県警へ持ち込み、それがテレビに採用されて落ち武者の現れる音じゃないかとされた笑い話もある。「知らぬが仏」という言葉があるが、この場合は逆に「無知は罪なり」である。
トラツグミは、スズメ目ツグミ科。このトラツグミの鳴き声が古い時代に、鵺の鳴き声と思われていた。図鑑などに鳴き声が「ヒュー、ヒュー」「ヒョーヒョー」などと表記されているが、簡単に表現できる鳴き声ではない。
昔、デンデラ野の奥にある妖狐の墓を確認しに行った時は、遠雷が聞こえる夕暮れ時だった。そんな中で、トラツグミが鳴いた。場所と時間帯に加えて、トラツグミのBGMが背筋をゾゾッとさせたものだった。とにかく物悲しくも、不気味に聞こえるトラツグミの鳴き声。映画「悪霊島」のキャッチフレースに使われた理由は、西日本に多くトラツグミに対する俗信が伝わっている。東北の場合のトラツグミは、寒くなって来ると北日本から南下して西日本に移動するようだ。だからなのか愛媛県では「春先にヌエが鳴くと死人が出る」と伝えられるが、遠野では春先にトラツグミの鳴き声を聞いた事が無い。
ヌエをここで詳しく書く気は無いが、ヌエと思われたトラツグミの鳴き声だから、そのイメージの恐ろしさから人の死と関連付けられてきた。先の「悪霊島」のキャッチコピーに似たようなものに「ヌエが鳴くと誰かが死ぬ」というものがある。このイメージが「悪霊島」のストーリーに連想されたのだろう。また別に「シイと鳴く時は人が死ぬ。ヒイと鳴く時は火事が出る」と云われているのは、その鳴き声の変化が認識されている為か。ただ自分は、「シイ」と「ヒイ」の違いがよくわからない。
そういう恐ろしいイメージが優先するトラツグミであるから、別名もまた恐ろしい名前がいくつもある。鬼鶫、棺鳥、地獄鳥、念仏鳥、幽霊鳥、冥土の鳥など、その不吉なイメージを優先させられての命名が殆どである。とにかく実際に寂しい場所で聞くトラツグミの鳴き声は、不安と恐怖を醸し出す効果がある。とにかく是非とも聞いて欲しい、トラツグミの鳴き声である。