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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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聖地巡礼(遠野 宮守 白望山)

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これは土曜日、日曜日と宿泊した客の話である。この客は、白望山に登りたいという希望をもって遠野を訪れた。実は、その前の金曜日にも遠野に宿泊し、白望山登山口の情報を聞きだそうとしたが、いろいろな関係筋に聞いてもわからなかったそうな。ある所からは、とんでもない道筋を教えられ、白望山登山口へと行き着く事ができなかったそうである。そこで土曜日に自分の宿へと泊まった際に、その道を教えた。しかし、初めて遠野を訪れた人間が、簡単に行き着ける場所ではない。ところで、何故に白望山なのかを聞いてみたところ、「咲-Saki-」という漫画があるらしく、その中に登場する「小瀬川白望」というキャラクターを作るに至った作者の心情を理解したいからだという。つまり俗に云われる、聖地巡礼の旅というものであった。
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翌、日曜日。客をそのまま白望山へ送り出そうと思ったが、やはり辿り着けない可能性が高いと思い、直接案内する事にした。実は、今年はコロナウイルス(武漢肺炎)の影響から、遠野のガイドは全て断ってきた。しかし白望山登山口への道程は、やはり案内するしかない難所である為に、今年初めての遠野ガイドとなった。画像は、白望山の背後にある金糞平と、そこに鎮座する大山桜。実は遠野の関係筋に聞いて、金糞平という地を知っている者はいなかったようだ。ただマップ上に、大山桜は示されていたが、その大山桜のある場所が金糞平である事を教えてくれる人はいなかったようである。
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初めは、山口部落から舗装道路を進み、貞任高原経由で新山まで行き、金糞平に寄り道した後、白望山登山口に到着。白見山と書かれた看板があるのだが、文字が欠損して何と書いているか、よくわからない状態になっていた。ただとにかく場所を確認し、車を停める場所も教えた。
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後は里に向かって下り、「遠野物語拾遺119」に登場する琴畑渓流の白滝と不動堂(白滝神社)を案内し、祟った早池峯の不動明王像を説明して帰宅。所要時間、2時間のガイドとなった。
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ところで、その漫画「咲-Saki-」だが、麻雀の漫画らしく、ストーリーの中に全国大会があり、岩手県代表として遠野チームが参加しているらしい。ただし遠野と言っても、主体は宮守の遠野情報ビジネス高だったようだ。その為に、漫画には宮守の駅やメガネ橋などが登場し、聖地巡礼として多くの「咲-Saki-」ファンが宮守に集まって、絵と同じ構図の写真を撮影していたらしい。それは自分も、まったく知らなかった…。


そして、この遠野チームの面々の名前には、遠野の地名や神様が採用され名付けられている。ネットで検索すると、その遠野チームの面々を民俗学的見地から考察するサイトが数多くあった。自分の宿に泊まった客は、小瀬川白望をメインに意識していたようだが、他にもいろいろと気になるキャラクターがいた。
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その中の一人に、姉帯豊音という目が赤く、身長197センチのキャラクターがいる。考察サイトを読むと、山女をベースに作られたキャラであるとするが定説となっているようだ。ネットで姉帯豊音の何枚かの画像を見たが、自分の第一印象は山女というより、蛇女。
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目が赤いで連想するのは「古事記」でのヤマタノオロチの話。ヤマタノオロチの目を「赤酸漿(アカカガチ)」と表現している。赤酸漿はホオズキの事をいうのだが、「古事記」以降から、赤い目=蛇の目という認識が出来上がっている。今ではヤマカガシでわかるように、カガチそのものが蛇の古語である事からも、ホオヅキそのものが蛇であるのは、やはりヤマタノオロチの話から定着したものであろう。また姉帯豊音の乱れた長い髪も、ヤマタノオロチの八つの頭と尻尾をイメージしたのでは?と感じてしまう。
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「遠野物語第三話」の鉄砲で撃たれたトヨを表現する「身のたけ高き女にて、解きたる黒髪は又そのたけよりも長かりき。」という文が、「咲-saki-」の作中で語られた事から、姉帯豊音は「遠野物語三話」の山に住んでいたトヨで確定的だとされている。しかし、この「咲-saki-」の作者のキャラのネーミングは、どこか捻りを加えているように思える。例えば、小瀬川白望だが、単純思考の作者なら「白望」を名ではなく、名字に付けたと思われる。そして、この白望の名字である「小瀬川」だが、遠野に住んでいるなら、土淵を流れる小烏瀬川をイメージさせる名字だ。遠野チームである事から、小烏瀬川(こがらせがわ)を使用したほうがベタだが、遠野らしい。しかし語呂が悪い為に、敢えて"烏"を外した名字にも思えてしまう。余談だが小烏瀬川は、美しい川の名前だと思う。しかし、小烏瀬(こがらせ)は子涸らし(こがらし)に通じるとされる。飢饉の時には間引きの為に、生後間もない子が、小烏瀬川に流された話を聞く。また、昔の謎々に「空巣(カラス)」などと揶揄された。麻雀は、勝負事。験を担ぐなら、カラを外すのは心情か。


ところで気になるのは、姉帯豊音の名を「トヨ」ではなく「豊」を使用している事。自分は、姉帯豊音の絵を見て蛇をイメージした。その蛇と豊が重なるキャラクターが二人いる。一人は、「古事記」に登場する豊玉姫。海底の空間に住む、蛇とも鰐とも云われる存在が豊玉姫だ。もう一人は、上田秋成「雨月物語」の中の「蛇性の淫」に登場する蛇に取り込まれた豊雄だ。姉帯豊音のモデルが「遠野物語三話」のトヨであるならば、姉帯豊だけで「音」は要らなかったのでは?と思うのだが、敢えて漢字二文字の名を採用したのには、「蛇淫の性」の豊雄を意識し、その女性バージョンに変えたのでは?などと思ってしまう。まあこれはあくまで作者の脳内変換であるから、なんとも言えないのだが。
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気になったのは単騎待ちを「ぼっちじゃないよ~。」と発した言葉。この「ぼっち」でハッと思い出したのは「遠野物語54」の機織り娘だった。大蛇の棲む腹帯ノ淵に生贄とされた娘が川の中の空間にある家で、機織りをしながら一人で住んでいる。この「遠野物語54」は、海中の空間に住む豊玉姫を下敷きに作られた話でもあるだろう。考察サイトを読んでいて気になったのは、姉帯豊音は六曜使いであると。作中に先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6種の曜を技としているそうである。しかし全ての技を晒したわけでは無い様だ。六曜使いというのは、あくまでも考察された事から認定されたらしい。


その六曜使いであるとされる姉帯豊音のニックネームが「背向(そがい)のトヨネ」。「背向」とは、背中合わせ、もしくは裏腹。どうも「背向のトヨネ」という言葉を強調しているように感じる事から、姉帯豊音の本質はそこに潜んでいるのではなかろうか?背中合わせで思うのは、背の裏表は腹。腹で連想するのは、やはり「遠野物語54」の腹帯ノ淵。大蛇に取り込まれた娘は、腹帯ノ淵で独りぼっちで住んでいる。川の中のその娘に出会った者は、ここでの事を誰にも話さないのであれば身上が良くなる能力を授けるとなった。その能力とは、博打に勝ち続ける能力であった。自分は「咲-saki-」という作品を読んでいないので、作中で姉帯豊音が、どうやって負けたのかはわからない。ただ、この蛇から授かった能力は、勝ち続けた後に、何らかの理由で一気に下降する可能性を秘めているという事。ともかく、姉帯豊音のニックネーム「背向(そがい)のトヨネ」とは、腹帯ノ淵の大蛇に取り込まれて、ぼっちで生活している娘を暗に示しているのではないだろうか?


とにかく、自分は「咲-saki-」という作品を読んでいないし、アニメも観ていない。今回は、宿泊客に触発されて書いた遊び記事なので、考察そのものも思い付きによるものである為に、本当のファンの方々には申し訳ないと思う。実は今回、宿泊客は、白望山登山を雨のために断念した。来年、もう一度遠野を訪れ、白望山に挑戦するそうなので、再び会えることを楽しみにしていよう。


尚、この記事に使用した「咲-saki-」に関する画像だが、ネットで出回っている画像を無断で拝借したことをお詫びしたい。

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