
「いかにも村方へご迷惑を相かけぬよう始末をつけましょう。」
ある日の事、別当である父親が男の子を連れて山へと行った。何か木を伐りにという風で父親は、大斧を持って先に立って歩きながら、いつになく優しい言葉を男の子にかけていた。男の子は心から嬉しそうに、いそいそとついて行った。そうして坊子沢という所へさしかかった時に父親はこう言った。
「あまりにくたびれたから、この岩の上でちょっと休んで行こう。」
父親は、男の事一緒に岩の上に登って横になった。疲れ切っていた男の子は、岩の上ですぐさますやすやと眠ってしまった。そこを父親は、大斧で男の子の頭を叩き割って殺してしまった。
佐々木喜善「遠野奇談」より
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目を覆いたくなるような話だが、それほど飢饉の時は人々の精神が非日常へと陥った時代でもあった。遠野の観光地を回る時、飢饉の歴史を避けて回る事の出来ない様になっている。