
男の子が初めて褌をあてる時には、叔母に晒木綿を買って貰う。また初めて生えた陰毛は必ず抜かねばならぬ。そうすると肝入り殿が抜かれたと言って後からうんと生えて来るのだそうな。
「遠野物語拾遺253」
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褌が一般庶民に広まったのは江戸の初期であるが、褌は衣編に軍が結び付いた漢字である為、戦という勇ましい意味を持つ。それが成人の通過儀礼として褌をあてるようになったのだろう。また叔母に晒木綿を買って貰うのは、「妹の力」という女性の霊力を取り込む呪術であろう。妹の力とは、近親者や配偶者となった男性にその霊力を分かち与え、それは即ち加護を与えるこ事である。つまり褌を初めてあてるという事は、一人前の強い男になる意でもある。
また肝入り殿は元祖の意味であるから、恐らく乳歯と同じ考えから成り立っているのではなかろうか。乳歯を天井裏に投げ入れ、鼠のような強い歯を願うのは、次に立派な永久歯が生えてくる事を知っているからであり、それと同じように初めての陰毛を抜く行為も、男らしく強くなるようにとの願掛けであったのだと思う。遺伝子的に、男は弱いものであるらしい。今も昔も、男より女の出生率が高いのは、精子が子宮を求める旅の途中、酸でやられてしまう為、酸に強い女の受胎率が高いからである。また生れても、男の死亡率は高く、世継ぎとしての男を守りたいが為に、色々な民間の呪術が利用されてきた。例えば、女が強い事から、名前も女の様な名前を名付けたり、ある程度成長するまで女の様な服装をさせたりと。この「遠野物語拾遺253」の場合は世に生まれた男の子が、今度は強い男になる為の通過儀礼の話である。