
キムチという名称が定着したのは、いつからであろうか?昔は"朝鮮漬"と呼んでいてキムチという呼称は無かった。ウィキペディアで調べると「朝鮮語で「野菜を漬けたもの」の意である沈菜(침채、チムチェ)が語源とする説や、沈漬(チムチ)、鹹菜(ハムチェ)を語源とする説など各種あり、定かではない。」
とにかく漠然とする「キムチ」という名称であり呼称の語源だが、実は古来からの日本に「キムチ」という名称があった。多分ピンとくる方が居るとは思うが、例えば大国主命の異称に大己貴命(おおなむち)という呼称がある。「貴(とおとい)」という意味を表す漢字が「ムチ・ムヂ」とも読む。まあ大己貴命は別に、大汝とも書き表す。
実は、たまたま「宇津保物語」を眺めていたら「汝貴(なむち)」の注釈に一緒に「君貴(キムチ)」の事が書かれていた。「君貴も汝貴同様、人命代名詞二人称で共に敬称、後に同等以下にも用いる。」と記されていた。また「源氏物語」の注釈にも「相手を尊んで言う場合の代名詞」とある。
キムチの「チ」は、やはり古来から使用されており、例えば「太刀(タチ)」「大蛇(ヲロチ)」「雷(イカヅチ)」などがある。「チ」は「神霊」を意味する文字で、「太刀」は「断」の意味があるが、やはり霊的な意味を有する。「大蛇」も「ヲ」が峯を意味し「ロ」は助詞で「峯の神霊」を意味する。「雷」は「厳(イカ)めしい神霊」を意味している。また、遠野の北に聳える早池峯も「ハヤチ」という、風を意味する神霊からきている。
つまり「チ」の付く名称は、神々しい神霊に対するもので、後に「君貴(キムチ)」は天皇などの位の高い人達に対する呼称でもあった。そうであった為か、日本では「キムチ」という呼称は、なかなか使用する機会が無かったようである。ところがいつしか古典的仮名遣いが廃れて行き、いつの間にか「朝鮮漬」であった筈の単なる漬物に「キムチ」という、どこか朝鮮語らしき語源の曖昧な言葉を充ててしまったのはどうしてだろうか?日本的には神霊の意である敬称が、いつしか零落してしまったのは何故だろうか?もしかして、日本人の知らぬ間に、文化侵略があったのかとも考えてしまう…。