
【窮鼠猫を噛む】という故事がある。これは、弱いものでも追い詰められれば、異常な力で反撃する事を言う。ところで画像は「旧鼠」といい、長生きした鼠の事を云う。猫も長生きすると猫又という妖怪になるが、その鼠バージョンが旧鼠だ。昔大和の志貴に赤・黒・白の鼠がいて、常に猫を取って喰らったと云う話で旧鼠が伝えられるが、これではまるで「旧鼠猫を喰らう」で、「窮鼠猫を噛む」の故事を妖怪風に模倣したような話だ。
「窮鼠猫を噛む」は、漢の昭帝の時代に賢人を集めて編纂した経世実用の書「塩鉄論・詔聖」によるもの。時代的には、この旧鼠よりも故事の方が古い。となれば恐らく「旧鼠」の話とは、この故事に倣って創作された話であろう。
「遠野物語拾遺175」に、猫が赤ん坊を食い殺した話を紹介しているが、エジコに入った赤ん坊をネズミが食い殺し、その鼠を捕えようとした猫が罪を被った話がある。画像の旧鼠は、エジコに入った子猫を、今まさに喰らおうとしている絵である。普段、猫に襲われる鼠であるが、仏教的背景から因果応報を意図して創作されたであろう旧鼠であるが、エジコには子猫よりも人間の赤ん坊が入っている場合が普通である為、人間の赤ん坊をも喰らう事を示唆した絵なのかもしれない。