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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語83(草分けの家)」

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山口の大同、大洞万之丞の家の建てざまは少し外の家とはかはれり。其図次の項に出す。玄関は巽の方に向へり。極めて古き家なり。此家には出して見れば祟りありとて開かざる古文書の葛籠一つあり。

                                  「遠野物語83」

この大洞万之丞家の話は「遠野物語14」「遠野物語69」にも紹介されており、オシラサマの草分け的な家でもある。この家からオシラサマが三体作られ、それが分散したというのは、どこか遠野三女神伝説を彷彿させる。姉神であるオシラサマがこの大洞万之丞家にあるというのだが、それは三女神のうち、六角牛の女神を意識してのものではなかったか。

文中に「玄関は巽の方に向へり。」とあるのだが、「注釈遠野物語」にも記されているように「遠野の曲り家は原則的に南向きで、玄関も南面し、風よけの意味もあって厩を西側に作る。地形によっては東側に厩を置く例もある。」としている。この大同の大洞万之丞家の方向から東南を見ると、六角牛が聳えている。玄関が六角牛に向けて建てられているというのは、まるで六角牛の何かを受け入れる為、意図的に建てられた可能性もあるのではなかろうか。大同と隣接する山口部落では、六角牛から「モンスケ婆が来る!」とか「ヤマハゝが来る!」「狼が来る!」などと子供を諌める話が伝わっているのは、山は異界であり、恐ろしいモノの棲む地であるという意識からだ。ところが、その六角牛に向けて玄関を作ったというのは、何かを受け入れるという意味ではなかろうか。それがオシラサマの姉人形があった大洞万之丞家であるから、三女神のうちの六角牛の女神を受け入れようと意図して巽の方角へ玄関を向けたのではないか。三体あったオシラサマを分けたのは、どこかで三女神伝説を継承し、オシラサマに結び付けたものと考える。巽の方角は、辰と巳の間で、龍神でもある六角牛の女神との関連が深い意味もあるのだ。

また「開かざる古文書の葛籠」だが、「遠野物語拾遺141」には宮家の「開けぬ箱」が伝わっており、それとは別に遠野の汀家にもまた似た様な「開けぬ箱」が伝えられていた。全てが共通する意図を含んでいたとは考え辛いが、やはり公に出来ぬ内容が記されていたのだろうと察する。しかし結局、その中身がどのようなものであったのかは、わかっていないようだ。宮家と汀家の中身はわかっているだけに、大洞家だけがわかっていないのは重ね重ね残念である。

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