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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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土渕(其の二)

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土渕では、和野の辺りが古いと云われるが、塞ノ神の石碑群から入り込んだ和野の地域は、小烏瀬川側から一段高くなっている土地となっている。その並びに、今では謎となっている天台宗の寺院があったというが、そこには明神沢があり、不地震の地として有名で、そこには無名の石が立っている。

手前の古い松の木には経塚があったとされ、この背後に山が聳える広大な土地に天台宗寺院があったとされる。

要石は江戸時代辺りから、地下で暴れる鯰を抑える為だと広がっているが、本来は龍脈を抑え、地震など災害から、その地を守る為でもあったようだ。寛文二年(1662年)五月一日、京都を含み若狭湾から琵琶湖一帯をマグニチュード7・4の地震が襲ったという。かなりの被害を及ぼした地震であったそうだが、浅井了意「かなめいし」に、その体験記が記されている。その地震の時、豊国神社はまったく被害が無かったという事から、その豊国神社多くの人々りの参拝が続き、境内の草が全て持って行かれたという。何故なら「豊国神社境内の草を家の軒に吊るすと地震が来ない。」という噂がたった為であったようだ。

和野からの一段高くなった土地は、縄文時代から災害の起きない地として人が住んでいたのだろう。和野の並びには、寺院の他に館跡もあるらしい。小烏瀬川を眺めるように立つ高台は、山口部落のデンデラ野のように、古来から人が住んでいたのだろう。そこに天台宗の寺院が建ったのであれば、そこはいつしか聖地として成り立ってしまう。その寺院跡の奥に不地震の地として要石が立っているというのは、災害を為す龍脈、つまり蛇である明神を抑える意味合いもあったのではなかろうか。

天台宗寺院跡の峰続きに、沼袋の不動尊がある。そこには沼の御前を祀っている事と、立地的に川の水位と変わらない場所にある為、恐らく小烏瀬川がもっと広大な川であった時代は、不動尊の石壁の下まで川であり、渕か沼であったのだと思える。そしてここから、舌出岩などの後に岩になった大蛇が出現した場所であると云う。沼の御前信仰は、遠野に古く、そして広く伝わっているが、その殆どが早池峯大神と結び付く。土淵の始まりが、小烏瀬川の不動尊からであるのも、それは早池峯続きであるからだろう。となれば、この沼袋不動尊から出現した大蛇とは、早池峯大神の影響を受けた大蛇であり、それが小烏瀬川の滝を基点に、その信仰が広まったものであろう。

今でこそ、小烏瀬川は狭い小さな川であるが、遠野の町も17世紀までは、水が氾濫し人の住めない地域であった事を踏まえれば、この土淵の栃内もまた、今とは違って、人の住む場所は高台の限定された場所であった事だろう。

魚の名十

騒がしき 鯰振り振り 動ひたら 早くいなせよ 深き笹原

鳥の名十

何時も 雉が鳴く日は うかりすな 藪へ駆け飛び 先へ進めよ

虫の名十

危なくも 怪我ありしてふ 聞いてだに 身にのみ沁みて いとど悲しき

草の名十

揺りやんで 遂にはよしと 聞くとても つたなき床に しばし眠らん

木の名十

月日過ぎ やむかやと気を 揉みきりぬ 待つももどかし 地震なき日を
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江戸時代の「地震用心の歌」であるが、地震に対する教訓と心情とが歌われている。地震被害は古来から続いており「日本書紀 天武天皇記」にも土佐に被害を為した津波の事が記されているが、恐らく記録には無いが、東北でも地震による津波が発生したものと思える。しかし「遠野市史」の年表を調べても、水害や旱魃は頻繁に記載されているが、地震はせいぜい1600年に「陸奥国に大地震有。岩木山噴火す。」とあるだけだ。地震列島日本と云われ、全国各地に地震がありながら、遠野の記録に殆ど載ってないのは解せないが、早池峯を頂点とし扇状に広がる不地震地帯の分布は、その地震の多さに対する信仰上の対策であったのだと思う。

それが土淵の栃内には、聖地である天台宗跡地にそれがある。恐らく、水害も含め、三分割された大蛇の舌出岩・続石・尾石は、災害を封じ込めた依代として存在したのではないだろうか。実際に大蛇が石になったわけではなく、丁度良いくらいに、小烏瀬川の流れ沿いにある巨石を、そう見立てたのだろう。その基点は西内の舌出岩であろう。西内に属するこの地域は不動岩とも呼ばれ、恐らくこの舌出岩自体が不動岩であり、水害や地震などの災害を抑えたという信仰の拠所となったのではなかろうか。(続く)

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