Quantcast
Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1368

泥棒を守護する神トイウモノ

$
0
0

大昔に女神あり、三人の娘を伴ひて此高原に来り、今の来内村の伊豆権現の
社にある処に宿りし夜、今夜よき夢を見たらん娘によき山を与ふべしと母の
神の語りて寝たりしに、夜深く天より霊華降りて姉の姫の胸の上に止まりし
を、末の姫目覚めて窃かに之を取り、我胸の上に載せたりしかば、終に最も
美しき早池峯の山を得、姉たちは六角牛と石神とを得たり。若き三人の女神
各三の山に住し今も之を領したまふ故に、遠野の女どもは其妬を畏れて今も
此山には遊ばずと云へり。

                             「遠野物語2話(抜粋)」

上記の三女神の伝承から、早池峯の神は泥棒した神だと認識された事から、早池峰の神は盗みをした人でも助けると信じられたようだ。ただ、地元遠野では早池峯の女神が霊花を盗んだ事を好意的に介錯し、本当に手に入れたいものは奪い取っても、自分の物にしろ。幸運は、指をくわえているだけでは手にする事は出来ないと。実際に遠野では「山のモノとおなご(女)はなぁ、早ぐとらねば誰かに取られてしまう。」として、山菜やキノコ、そして、気になった女性は早めにつばをつけるものだと広まっていたようだ。とにかくその為なのか、早池峯の泥棒の異伝が伝えられている。

ある時、矢蔵という百姓が糯苗が無い為に長者の苗代から失敬したという。暫くして矢蔵に嫌疑がかけられたが、矢蔵はそれを否定した。しかし困った矢蔵は早池峯の女神に向かい、糯稲の穂を粳稲の穂に変えてくれるよう祈願したという。そして秋の収穫時に長者が矢蔵の稲穂を調べに来て見たが、全て粳稲の穂に変わっていたそうな。それから、中身が糯米なのに外見が粳米に見える米を、矢蔵糯とか早池峯糯と呼ぶようになったという事である。

またこれと似た様な話が、和賀郡小山田村にも伝わっている。

早池峯は、妙見信仰に関わる神である。その星の神は、反体制的であると捉えられる為に、時の為政者からは快く思われていなかった。その事は平将門と瀬織津比咩(其の9)でも書いたが、やはり盤石な幕府の当時体制を敷く為には、天下の副将軍のおひざ元に、かって反朝廷的であった香香背男などの星の信仰が広がる事を許せなかったのだと思う。古来から庚申の年には蝦夷が蜂起すると恐れられ、また庚申の日に生まれた石川五右衛門が天下を轟かせる大泥棒であった事など、どうしても為政者にとって星とは負の要因でしかない。それ故に、妙見と結び付く早池峯の神が泥棒を守護すると云われても仕方の無い事なのかもしれない。しかし、調べると妙見には、少々違った逸話があった。

紀伊の国安諦の郡の私部寺の前に、昔、一つの家ありき。絹の衣十むらを盗人に取られ、妙見菩薩に憑りて祈り願ひき。

盗みし絹は木の市の人に売る。七日に満たず、たちまちに猛風来る。その絹を纏へる鹿、衣を褒げて南を指して往き、主の家の庭に堕して衣を得しめ、すなはち天に去りたまふ。買へる人転へ聞きて、すなはち盗みし衣なることを知り、当頭きて求めず、宴嘿かにして動かざりき。これもまた奇異しき事なり。

「絹の衣を盗ましめて、妙見菩薩に帰願しまつり、終にその絹の衣を得る縁」「日本霊異記」

河内の国安宿の郡の部内に、信天原の山寺あり。妙見菩薩に燃燈を献る処となす。畿内年ごとに、燃燈を奉る。

帝姫阿倍の天皇のみ代に、知識、例によりて、燃燈を菩薩に献り、ならびに室主に銭・財物を施しき。その布施の銭のうち五貫を、師の弟子、ひそかに盗みて隠せり。後に、銭を取らむがために、往きて見れば銭なし。ただし鹿、箭を負ひて仆れ死せらくのみ。

すなわち鹿を荷はむがために、河内の市の辺の井上の寺の里に返りて、人どもを率て至りて見れば、鹿にはあらず、ただ銭五貫なり。よりて盗人を顕しき。

定めて知る、これ実の鹿にあらず。菩薩の示したひしところなることを。これ奇異しき事なり。


       「妙見菩薩、変化して異しき形を示し、盗人を顕す縁」「日本霊異記」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「日本霊異記」の初めの話は、盗まれた絹が鹿を通じて戻って来ている。また次の話は、盗んだ銭が鹿の死体に変化しているが、共通するのが何故か盗みと鹿になっている。まあどちらにしろ妙見菩薩の霊験譚となるのだが、この話によれば妙見菩薩は、そのものの姿を変化させる力があるという事になる。

先に紹介した、糯米の稲穂を粳米の稲穂に変化させたのは、早池峰の神の力であった。つまり泥棒を守護するというより、信仰する人を助ける為、そのものの形を変化させたりする霊的な力は、妙見菩薩と同じであった。可能性として、この妙見菩薩の霊験譚を元に、早池峯の神の力によって糯米の稲穂が粳米の稲穂に変化した話が作られた可能性はあるだろう。それは早池峰の神が妙見神でもあるという事なのかもしれない。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1368

Latest Images

Trending Articles