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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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「遠野物語44(世界遺産の橋野高炉跡)」

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遠野郷より海岸の田ノ浜、吉里吉里などへ越ゆるには、昔より笛吹峠と云ふ山路あり。山口村より六角牛の方へ入り路のりも近かりしかど、近年此峠を越ゆる者、山中にて必ず山男山女に出逢ふより、誰も皆怖ろしがりて次第に往来も稀になりしかば、終に別の路を境木峠と云ふ方に開き、和山を馬次場として今は此方ばかりを越ゆるやうになれり。二里以上の迂路なり。

                                  「遠野物語5」

安全に沿岸域へ行く為に笛吹峠を避け、境木峠を利用する旅人が増えたという理由は、噂だけの魔物では無い筈。実害があったからこそ、笛吹峠を避けたのだと思っていた。山の峠とは恐ろしいもので、それは笛吹峠だけでなく、山そのものが魔物がいると信じられているから、どの山の峠も恐ろしかったと思う。しかし実際に、笛吹峠を避けたという事は、実害が頻繁に起こってのものだったろう。その笛吹峠には、今回世界遺産に登録された橋野高炉跡がある。この橋野が登場する話に「遠野物語44」の猿の経立の話がある。

六角牛の峯続きにて、橋野と云ふ村の上なる山に金坑あり。この鉱山の為に炭を焼きて生計とする者、これも笛の上手にて、ある日昼の間小屋に居り、仰向に寝転びて笛を吹きてありしに、小屋の口なる垂菰をかゝぐる者あり。驚きて見れば猿の経立なり。恐ろしくて起き直りたれば、おもむろに彼方へ走り行きぬ。

                                 「遠野物語44」
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猿を見て、いきなり猿の経立と思うかどうか。つまり目撃したのは、猿のような恐ろしいものであったとも考えられる。

大槌から釜石にかけて鉱山が多くあり、その利便性から出来たのが橋野高炉であったのだろう。今回、その世界遺産登録にあたって韓国が軍艦島に対して難癖をつけているが、その理由は強制労働であったという事である。強制労働といえば、鉱山関係の仕事は落盤事故の多発さから、いつ命を落とすか分からぬ為、罪人などを人夫として働かせていたのは全国的な事であった。それ以外に、見つかれば死罪となる隠れキリシタンの人々も鉱山で働いていたという。例えば「胴臼洞(どううすほら)」というのは「デウス洞」から来ていると云われるのは、見つかれば死罪の隠れキリシタンを、ただ殺すのではなく事故死率の高い鉱山の労働者として働かせた方が、その命を有効に使えるという事から働かせていたようだ。その代わり、信仰の自由は与えていたらしく、坑道内で隠れキリシタンのミサらしきも行われていたらしい。明治時代に瑞応院に誰かから預けられたマリア像らしきは、細かな埃で薄汚れていたのは、坑道内で祀られた像であった為のようだ。

そして、橋野高炉には、外国人も働いていたのが確認されている。十一面観音を祀る大槌の観音堂は、行方不明だった十一面観音が見つかってから建立された観音堂である。その行方不明の十一面観音の場所を占った巫女は、赤髪で、身長の高い、そのスタイルも含め、まるで西洋人の様な巫女であったと。顔写真は見せられたが、まるで西洋の魔法使いの婆様の様な顔をしていた。その巫女の血筋は、橋野高炉で働いていた西洋人であったという。「遠野物語拾遺」にも、難破した外国船の異人と結ばれた話を記しているが、江戸時代にも頻繁に難破船が三陸沿岸に漂着する事から、瀑布の命を受けて南部藩が釜石の尾崎半島で、外国船の監視をしていたという。しかし、難破した船の船員達がどう扱われたのかは、わかっていない。恐らく、橋野高炉で働いていたという西洋人は、難破船の乗組員ではなかったのたろうか。

橋野高炉や鉱山では、脛に傷を持つ者などを雇って高炉を運営していたという。その中には、外国人もいた。その橋野高炉傍を通る笛吹峠を渡る旅人が襲われ、金品を巻き上げられたという。橋野高炉の人夫は、ある程度の監視下にあったようだが、その監視の目をかい潜って悪さをした者もいたようだ。その悪さが行われたのは、高炉の仕事が終わった後の夜であったろう。夜の闇に紛れて悪さをする橋野高炉で働く人夫は、旅人にとって、まさに魔物であったと思う。さらにその魔物の中に赤神の高身長の西洋人がいたとしたら、どうであろう。その赤髪の西洋人は、鬼となり、山男となり、天狗として広く伝えられたのかもしれない。

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