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遠野不思議 第八百三話「モズ(百舌)」

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「百鳥の音を真似る」から百舌と書いて「モズ」というが「百舌勘定」の言葉があるように、他の鳥を騙して自分は一銭も払わなかった事から、二枚舌の更なる上の百舌かとも思える。百舌の速贄は有名だが、別に「百舌の磔」とも云う。子供の頃、手塚治虫の漫画で百舌の速贄を示唆する話が、少し怖かった思い出がある。

「日本書紀 仁徳天皇記」には既に「百舌」が登場する。仁徳天皇そのものも「大鷦鷯尊」と称する事から、飛ぶ鳥は人間を超越し天に近い存在である事を示唆しているのだろうか。その仁徳天皇六十七年冬十月に、こう記されてある。

「是の日に、鹿有りて、忽に野の中より起りて、走りて役民の中に入りて仆れ死ぬ。時に其の忽に死ぬることを異びて、その痍を探む。即ち百舌鳥、耳より出でて飛び去りぬ。因りて耳の中を視るに、悉に咋ひ割き剥げり。故、其の處を號けて、百舌鳥耳原と曰ふは、其れ是の緣なり。」

これは死んだ鹿の耳から百舌が飛び去ったとあるが、その鹿の耳は食い裂かれていたようである。それから地名を百舌鳥耳原と名付けたとあるが「百舌鳥耳原」は天皇陵であり、「百舌鳥耳原中陵」は仁徳天皇陵。「百舌鳥耳原南陵」は、履中天皇陵。「百舌鳥耳原北陵」は、反正天皇陵。天皇陵に百舌の地名が重なるのは、百舌が死の匂いを持つ不気味な鳥と云う認識に基づいてのものであったか。エジプトではハゲワシが死体をバラバラの肉片にして天へと運んだとするが、百舌は死んだ鹿の耳の内部を食い裂いたとある事から、エジプトのハゲワシと同じ意味合いを含んでの事であったろうか?

撮影している時に、フト思い出したのは「もずが枯れ木で」という歌だった。自分は鮫島有美子さんのアルバムでこの歌を知ったのだが、どことなくもの悲しい歌である。

もずが枯木で 泣いている
おいらは藁を たたいてる
綿ひき車は おばあさん
コットン水車も まわってる

みんな去年と 同じだよ
けれども足りねえ ものがある
兄さの薪わる 音がねえ
バッサリ薪わる 音がねえ

兄さは満州へ いっただよ
鉄砲が涙に 光っただ
もずよ寒くも 鳴くでねえ
兄さはもっと 寒いだぞ

戦争へ、その家の兄さんが行ったが、無事に帰って来るのか帰って来ないのか、とにかく日常から兄さんのいなくなった寂しさが伝わってくるのだが、それに百舌を交えた事による不吉さも伝えていたのかもしれない。田村由美「7SEEDS」にはジョーカー的な立場に百舌という人物が登場している。少年と少女だけが生き残った未来に、大人の男として存在している百舌は、恐らく生き残る為に不穏分子を処罰する為の見張りであるのか、その百舌の動向には注目せざる負えない。あくまでも漫画の話ではあるが、漫画家の田村由美もまた、百舌の不気味さをイメージして漫画の中に配置したのではなかろうか。

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