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Channel: 不思議空間「遠野」 -「遠野物語」をwebせよ!-
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死者の鎮魂トイウモノ

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昨日のニュースで、政府主催の東日本大震災追悼式を来年までとすると発表し、その政府の発表を煽るように朝日新聞社は釜石市長に、それとなりを聞いたようだ。釜石市長は「国がやろうとやるまいと、私たちはこれかもずっと毎年やっていく。私たちにとって今後も決して忘れてはならない出来事だから。」と述べた。これは当然の言葉であると共に、とても難しい言葉であった。何故なら一世紀もすれば、人は入れ替わるからだ。となれば、住む住人に過去の人の面影さえわからぬ人が主体となる。変な話だが、親戚付き合いも、互いに知らない同氏の世代になった時、その親戚関係は廃れてしまう。例えば、震災で息の子供たちが寿命を迎える可能性の高い80年後、どれだけの人が震災で亡くなった方々の面影を偲べるかという話になってしまう。思いが無くなれば、その行為は長続きしないからだ。昭和22年にカスリン台風、昭和23年にアイオン台風が遠野を襲い、多くの人達が亡くなった。しかし、自分がその話を聞いても、どこか人ごとに感じたのは、自分自身がまだ生まれていなかったらでもある。また、身内にその関係者がいなかったせいもある。どこか遠い昔話の様な感覚で、その事実を知った。つまり、災害に対するリアリティが失せているからだった。そこに自分は「方丈記」の序文を重ねてしまう。
行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる試なし。世の中にある、人とすみかと、またかくの如し。玉敷きの都のうちに、棟を並べ甍を争へる、高き、いやしき人の住ひは、世々を經て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。或はこぞ焼けて今年作れり。或いは大家ほろびて小家となる。住む人もこれに同じ。所も変らず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、わづかにひとりふたりなり。朝に死に、夕に生るるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける。

不知、生れ死ぬる人、何方より来りて、何方へか去る。また不知、仮の宿り、誰が爲に心を惱まし、何によりてか目を喜ばしむる。その主と栖と、無常を争ふさま、いはば朝顏の露に異ならず。或は露落ちて花残れり。残るといへども朝日に枯れぬ。或は花しぼみて、露なほ消えず。消えずといへども、夕を待つ事なし。

                              「方丈記」
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恐らく、死者の鎮魂の行事として最長にとなるものは、墨田川の花火大会ではなかろうか。享保18年、徳川吉宗が死者の慰霊の為に墨田川で花火を打ち上げた。これは、水難防止を祈願する川開きという年中行事であったが、花火が加わったことで、江戸の有名な夏の風物詩となった。しかし、この享保の時代は、前年の享保17年は大飢饉が発生し、またコレラが蔓延し、多くの死者を出した年代であった。その大飢饉の原因となったであろう、全国的に火山が活性化していた時代であるようだ。岩手山も、享保17年に噴火している。享保18年は、西暦1733年。つまり墨田川の花火大会は、現代も続いている事から、約300年もの間、死者への鎮魂が続いている事になる。ただ、今では花火大会というイベントがメインで、死者への鎮魂の意識は無くなったものと思える。しかしだ、神社も人が来るから存続できている。墨田川の花火大会も、人々に認められ、多くの人々が押し寄せているから存続できているのだ。その人々の賑わいは、魂の賑わいである。未来の子孫達が、こうして元気でいる事を示すのも、また鎮魂であると思える。徳川吉宗の胸の内はわからぬが、もしかして享保17年に相次いだ火山の噴火を逆手に取り、それを死者への鎮魂として華々しい花火で表現したのかとも思えてしまう。火山の鳴動は、神の鳴動であり、それは人々の魂を揺らす。その魂の揺らぎを、死者への鎮魂に取り入れ花火大会とし、過去を忘れずというより、未来を見据えた死者への鎮魂が、墨田川の花火大会でなかったのかと、今更ながら感じてしまう。
人は、忘れる生き物でもあるという自覚をし、東日本の大震災の鎮魂を、「決して忘れてはならないもの」という重い意識を続けるより、大震災から生き残った人々や、その子孫が未来永劫続けていけるような、前向きな鎮魂を意識しても良いのではないか。まずは、墨田川の花火大会の歴史の長さを目指し、大震災で亡くなった人達に対し、未来のあなな達の子孫は、こうして明るく平和な人生を過ごしていますよと見せるような死者の鎮魂に変えても良いかと思うのであった。

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